タイタンの妖女

 こんにちは。早く梅雨明けてほしいですね。

 

 カート・ヴォネガット・ジュニアの『タイタンの妖女』を読みました。

 

 

 さて、カートヴォネガットですが、これは去年まで話が遡ります。当時ランダムに本を読み漁っていた僕の中で何故か「村上春樹が影響を受けた作家の代表作を読むムーブメント」が発生しました。確か僕が敬拝している先輩からレイモンドカーヴァ―の『大聖堂』を借りたことがきっかけだったような気がします。「村上春樹 影響を受けた作家」で検索し一番上にヒットしたNAVERまとめの情報を軸に本を買って読み漁っていました。NAVERまとめを忌み嫌う人種が僕の周りには少なからずいますがこういう時には大変便利なものです。

 

 ムーブメントで読んだ本をあげていくと、

 トルーマン・カポーティティファニーで朝食を

 こちらは龍口直太郎訳で挑戦しましたがどうも読み辛く結局村上春樹訳で読みました。こういう時何故か敗北感を感じてしまいます。僕の汚い心の一部分ですね。

 

 J・D・サリンジャーライ麦畑でつかまえて

 野崎孝訳。サリンジャーナインストーリーズを先に読んでいたので相対的にとても読みやすかったです。

 

 レイモンド・カーヴァ―『頼むから静かにしてくれⅠ』

 村上春樹翻訳ライブラリーより。短編集です。『アラスカに何があるというのか?』という作品が収録されていますが、これは数年前に村上春樹が書いていた紀行文集『ラオスにいったい何があるというんですか?』の元ネタなんでしょうね。インパクトのある表題作の原題は『Will You Please Be Quiet, Please?』です。心の底から苛々する相手に言いたい一言ですね。

 

 R・ブローティガンアメリカの鱒釣り』

 これは本当に素晴らしいです。断片的なイメージの連続ですがそれらどれもが独創性に溢れていて美しい。山積みにされている川を買うシーンが最高です。何言ってるか分からないかもしれませんが読めばわかります。

 

 スコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャッツビー』

 こちらも村上春樹翻訳ライブラリーより。まだ買っていない人へのアドバイスなんですが、表紙が眼下の看板の方の版を買うことをお勧めします。これも読めばわかる。

 

 そしてこの流れの中でカート・ヴォネガットの『スローターハウス5』を読んだわけです。僕が人生で一番多く再読している『風の歌を聴け』には、ある小説の一文を引用し、それが何とも言えずいい、と述べるシーンがありますが(21章)それと全く同じシーンが『スローターハウス5』の中でもありました。そのほかにも上記で述べた本たちと似通った描写が村上春樹初期作品には多く含まれていました。こういう関係性に気づくのって本当に楽しいですよね。

 

 

 オタクなのでめちゃくちゃ喋ってしまった。話を戻します。

 

 さて、『タイタンの妖女』ですがこれは大富豪マラカイ・コンスタントが時間等曲率漏斗の中に入り込んだラムファード氏の予言通りに地球・火星・水星・再び地球・そしてタイタンへと旅する物語です。この予言自体は物語の冒頭でされるのである意味ネタバレなわけですがそれでも面白いです。出鱈目な展開ですが、訪れる惑星での話ももちろん出鱈目で『銀河ヒッチハイクガイド』と似たような雰囲気を感じましたね。

 

 実はこの小説、去年の夏に一回途中まで読んで諦めちゃったんですよね。単純にそのころ読書のスランプで全然頭に活字が入ってこなかったというのもあるんですが、何より冒頭のマラカイ・コンスタントの性格が非常に気に食わなかった。『スローターハウス5』『猫のゆりかご』の主人公の性格が不条理に対して「そういうものだ」と言っては淡々と生きていく…というまんま村上春樹初期作品の「僕」なわけで、読みやすかったのですが、マラカイ・コンスタントはそりゃもう調子乗りなんですよ。大富豪ですからね。ラムファード夫人を性的ジョークでからかったりしていて、いや違うやろ、僕はヴォネガット作品にこんな主人公を求めてへんねん…となり、ページをめくるのが億劫になってしまったわけです。

 

 ではなぜ最近になって読み直したのか。今度はサークルの後輩がきっかけです。彼はちょっと頭がおかしいけれどキーボードがとてもうまい。そして僕と趣味というか人生観が少し合うところがあるんですよね。(と僕は勝手に思ってます)彼となんか他愛もない話をしている時にたまたま彼のスマホのロック画面を見てしまったのですが、それが『タイタンの妖女』の表紙をネガ反転させたものでした。彼にその理由を聞いたところ「何とも言えず良いから」という言葉が返ってきたので、君がそう言うならもう一度読んでみるか…となって再読に至ったわけです。

 

 ヴォネガット作品の表紙と言えば和田誠氏ですね。作風とマッチした緩い絵が素晴らしいです。そういえば最近文庫化された『はい、チーズ』では和田誠氏ではなく片山若子氏が表紙を担当していましたね。こちらもヴォネガットらしくてよいです。特に犬の絵が。

 

 

 また話が脱線しました。

 

 上でも述べたようにこの物語は地球・火星・水星・地球・タイタンと舞台が目まぐるしく変化します。そしてマラカイ・コンスタントが調子乗っているのは地球にいる間だけです。火星へ拉致されるときに記憶を消去されてしまうんですよね。そしてアンク(おっさんの意)と名付けられるわけですがこのアンクがとてもヴォネガット的主人公でとても良いです。なので『タイタンの妖女』を読み始めて気に食わなくてもとりあえず火星編まで読んでみることをお勧めします。僕が一番好きなのは水星編ですね。歌を食べる生物ハーモニウムのヒントを頼りに水星を脱出するという流れですが、最初のヒントが「コレハ チノウ テスト ダヨ!」というのが良いです。書き置きたい台詞。

 

 後輩が述べたようにヴォネガット作品は「何とも言えず良い」文章の連なりです。惑星移動やら時間移動やらはありますがそこまでゴリゴリのSFではなく、むしろそれらを通して死生観を語るというのが大きな特徴です。巷では純文学+SFなんて評価もされていて確かにその通りだと思います。なのでSF入門としては最適だと思います。早川文庫だと爆笑問題太田光が解説を書いていてこれがなかなかにいい文章なのでお勧めです。

 

 

 

  ヴォネガット本当に良いとしか言えなくて感想書くのが難しい。