〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件

 こんにちは。実家で風邪をひきながらこれを書いてます。

 

 

 今回はこのブログ初のミステリー。どう書けばいいのやら。

 

 

 

 キャラミス、というのが苦手だ。キャラミスというのはキャラクター・ミステリーの略でその名の通りキャラクターに重きをおいたミステリー小説である。つまりトリックやらロジックやらはそんなに凝っている訳でもなく、かっこいい男主人公(だいたいが高身長で髪の毛は無造作)またはかわいい女主人公(だいたいが色白でめちゃくちゃ計算が速い)がさっぱりと事件を解決してしまって仲間たち(だいたいがうっかり者の助手またはツッコミ役の一般人同級生または堅物だが協力的な刑事)と拠点地(だいたいが喫茶店または古本屋または薬屋)でわいわいくだらない会話を続けるだけの小説である。少しでも売れると瞬く間にシリーズ化され、中身があるのかないのか分からないような続編が次々と世に放たれていく。そして本の表紙はアニメイラスト。

 

 キャラミスを苦手になったきっかけは高里椎奈の『銀の檻を溶かして』だ。当時本格派やメフィスト賞といった言葉すら知らなかった中学生の僕は全く何も知らないままあらすじだけ見て『銀の檻を溶かして』を借りた。「薬店を営む三人組が殺人事件の謎に挑む」って今見たら地雷の香りしかしないが当時は面白そうに感じたのだ。表紙も今ではしっかりイケメンの三人がアニメイラストで描かれているが、僕が読んだのは確か講談社ノベルス版でこれは三つの人型の影が描かれているだけのいかしたデザインだったのだ。それで肝心の内容だがもうあまりにもひどすぎて覚えていない。期待値を完膚なきまでに下回ってくれた。とにかくちゃんとした謎解きが行われなくてぶち切れたことだけ覚えている。そんなわけでキャラミスが苦手なのだ。

 

 

 さて、今回読んだ早坂吝の『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』の表紙にもしっかりとアニメイラストが描かれている。露出度の高めな服装の色白の女の子が振り向きざまに舌を出している。探偵役である上木らいちである。俗にいう「上木らいちシリーズ」一作目なんだとか。役満。キャラミスだ。

 

 

 普段の僕なら手を触れるのも躊躇うような小説を何故読んだのかというと、これがメフィスト賞受賞作だからという理由がある。メフィスト賞についての解説は面倒くさいので勝手に自分で調べてください。調べるのが面倒な人はとにかくミステリー界のキワモノの集まる賞という認識で結構。僕自身キワモノ小説が好きだし、読書メーターの読みたい本ランキングで一位になっていたり、なにかと話題だったので前々から気になってはいたのだ。でも買うには至らなかった。何故かって?アニメイラストだから。

 

 そんな僕を見かねてかミステリ好きの友人が貸してくれることになった。彼は早坂吝のファンで作品をほとんど網羅している。なので貸してくれる時にらいちちゃんの良さをとくとくと語ってくれたのだが、キャラミス嫌いを公言している人間にすることではないやろと思ったことを覚えている。借りてからも数か月は積読の山の上に放置されていた。それぐらいにはミステリに対するモチベが低い。キャラミスならなおさら。しかしいつまでも上木らいちのイラストに見られ続けるのも決まりが悪いので思い切って読んでみることにした。

 

 

 

 感想。これはキャラミスではないです。

 

 

 援交探偵こと上木らいちちゃんがビッチな方法で事件を解決していくんだよ、という最低最悪な前情報のみを得ていた僕にとって意外だったのは語り手が上木らいちではなかったことだ。ライトノベルよろしくな文体でキツイ性格の女の子を語られることを恐れていたのだが、よく考えると探偵役が語り手を担うことは基本無いのでこれは当たり前ともいえる。というわけで語り手はミステリ好きの冴えない公務員。語り手を含む登場人物はアウトドアが趣味で、フリーライターのブログで知り合い、その中の仮面の男が所有する孤島で毎年オフ会を行っているという設定。そして探偵役上木らいちはいわゆる猫被りの状態で登場する。ここで結構身構えた。語り手と猫を被った探偵役が二人きりになった瞬間にその本性をさらけ出しはちゃめちゃな流れをつくりだすというのがこの手の小説ではよくある手法だ。しかし今回はそんな流れもなく淡々と物語は進行し、第一の殺人がおこり、第二の殺人がおこり……あれ、これキャラミスではないのでは、と思いかけた途端に援交探偵と言われる所以の描写が飛び出してきた。ここの描写が面白いくらい上手い。作者も絶対楽しんで書いてると思う。はてさて一線を越えたからにはらいちのキツイ性格が飛び出すのか、と思っていたのだけれどそんなこともなく華麗な推理を披露して終了。上木らいちがキツイ性格というのは僕の先入観が作り上げた勘違いということが判明した。ミステリー小説としてはどうかというと、これが結構細かいところまで組み上げられていて感心した。トリックや引用にも古典作品に対するリスペクトを感じたし、真相も馬鹿馬鹿しいものではあるのだけれどなるほどその設定があったか、という感じ。『〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件』という伏字も真相がわかった瞬間にハッと思い付くような巧妙な設定。このタイトルのつけ方には脱帽ですね。

 

 

 

 予想していたよりも断然面白かった。というのは表紙の件もあって期待値を若干低めに設定していたことが原因でもあるけれど。このシリーズなら読んでもいいかな、とも思う。でもやっぱりアニメイラストの表紙は買う気になれないのでミステリ好きの友人に借りることになりそうだ。