ポエトリー・ドッグス

「よくわからないけど、ことばによって、じぶんが、はっきりする。でも、それは、けっきょくじぶんではないものができるというのと、いっしょな気がするんだ」

 

 心の中に自分がいる。そして、身体としての自分が在る。だけれどもこの世界のどこにも自分がいない。そんな馬鹿みたいな考えが頭をよぎることがある。一陣の風のように。本棚を見てそう思うことが増えたかもしれない。

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うろん紀行

 休みの日なのにうまく寝付けず、寝ているのか起きているのかよくわからない状態のまま六時間ほど過ごし、朝を迎えた。明確に起き上がり、掃除洗濯を済ませるとなんだか満足感が得られて、今日一日がいい日になる気もしたのだが、それは一時的なもので、すぐに今の自分が何も持ち合わせていないことに嫌気が差してしまった。持ち合わせるとは何をか、それが分かれば苦労しないのだが、とりあえず今日はもう音楽も聴きたくないし、本も読みたくないので早めの昼寝を決めることにした。

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マクベス

「テレンス」息せき切って訊ねた。「今日は何日だ?」

「どうだっていいじゃないか。『あすが来、あすが去り、そしてまたあすが、こうして一日一日と小きざみに、時の階を滑り落ちていく……いつも、きのうという日が、愚か者の塵にまみれて死ぬ道筋を照らしてきたのだ』愚か者!」

(犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎/コニー・ウィリス)

 

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犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎

 犬が苦手だった。苦手になったきっかけ、というものは思い出せず、物心ついた時からずっと犬のことが苦手だった。これは犬種によらない。ゴールデンレトリバーのような大型犬はもちろんのこと、チワワのような小型犬も駄目だった。散歩している犬とすれ違うときは毎回ものすごく緊張するし、何ならすれ違わなくていいように道を変えることすらした。とにかく、僕は何故か犬という存在に怯えてしまうのだった。

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ボートの三人男 もちろん犬も

「僕らに必要なのは休養だよ」とハリスが言った。

「休養を取って、気分を一新することだな」とジョージ。「脳に対する過剰な負担のせいで、全身が沈滞状態に陥っているんだよ。環境を変えて、ものごとを思い悩む必要から解放されれば、精神の平衡が取り戻せるはずだ」

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二十億光年の孤独

 もうなんでもいい、どうでもいい、と思いつつ、やはり諦めきれず、もがく。液体の中に沈んでしまえばいいのに、なんとか息をしようとして、もがく。日々は穏やかだが、だからこそ深くて恐ろしい海がそこにある。

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