雪国

 2020という数字はキリがよくて、未来的だなと思っていたのだが、そこに1を足して2021となると、なんだか得体の知れないやつという感じがする。得体の知れない年になってもう一週間が過ぎたが、今のところ心身ともに安定していて、いい感じだなと思っている。まぁどうせすぐに崩れてしまうのだろうが、安定している今を喜ぶのは悪いことではない。

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闘争領域の拡大

 「小さい頃は神様がいて/不思議に夢をかなえてくれた」というのはユーミンの歌詞だが、僕にもかつて、神様と呼んで差し支えないような存在がいて、僕がすべきことをそっと教えてくれたものだった。なんでもないような瞬間に、人生の指針とも言える考えがパッと頭の中で発生する。根拠はどこにもなかったが、僕はそれを信じた。実際のところ、色々とそれでうまいこといった。神という概念があるのも不思議ではないと思う。

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つるつるの壺

 最近、昼間に特に大したことをしているわけでもないのに、家に帰ってご飯を食べてシャワーを浴びるともう、ぐでんぐでんに疲れ切って何にもやる気が起こらなくなってしまう。あの本読まなきゃなとか、あのアルバム聴いときたいなとか、そういえばアマプラにあの映画来てたなとか、なんとか、かんとか、思うのだけれども身体と脳はぐでんぐでん。全く何にもできない。なので仕方なく12時にもならないうちに布団の中に潜りこむ。明日は早くに起きて、なんやかんやをして充実させるぞ、と意気込み、こんこんと眠る。こんこんと眠りすぎて気付いたら朝の9時、おわっ、寝過ぎた、急いで研究室へ向かう。

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破局

 一年ほど前に、高校の友人と火鍋を食べに行った。火鍋というのは中国の鍋料理で、薬味(?)がゴロゴロと入ったスープにラム肉を通して食べる、いわばしゃぶしゃぶのような料理だ。僕は二回生の頃に初めて食べて、すっかりハマってしまい、ことあるごとに友人を誘っては食べに行っている。そのときもその一環で行ったのだが、彼もうまいうまいと言いながらラム肉をスープに放り込んでいた。

 

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『吾輩は猫である』殺人事件

 こんな夢を見た。

 腕組をして枕元に坐っていると、仰向に寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭の柔らかな瓜実顔をその中に横たえている。真白な頬の底に温かい血の色がほどよく指して、唇の色は無論赤い。とうてい死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますと判然云った。自分も確にこれは死ぬなと思った。 

 

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吾輩は猫である

 伸びた髪の毛が視界を遮って邪魔くさいので切ることにした。しかしいつも行っている店は臨時休業しているらしい。個人経営なので店主が体調を崩してしまうとどうしようもない。仕方なく新しい店を探すことにした。こういう時に生来の優柔不断が発揮されるのは明らかだったので、何も考えずに近くの店へ行くことにした。

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お嬢さん放浪記

 炎天下の街を歩いていると、マスクの中で玉のような汗がすぐさま噴き出てくるのがわかる。実に耐え難い。開かれた空間だし、半径2メートル圏内に人はいないし、別にちょっとぐらいいいだろうとマスクをずらす。マスク越しでは感じられなかった、夏の匂いがすぐさま鼻腔を占領する。思わずため息がでる。時たますれ違う人も、同じようにマスクをずらしながら、あるいは握り締めながら、強い日差しと人の視線を避けるように歩いている。このままでは、色んな組織、色んな集団、色んな人々に限界がくるのも近いと感じる。でも今のところ、僕にできるのは、ずらしたマスクを付け直すことだけだ。

 

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